《吾輩は猫である》第98章


ほら)を吹く人が出て、私(わたし)ならきっと片づけて見せますからご安心なさいとさも容易(たやす)い事のように受合ったそうです」
「その法螺を吹く人は何をしたんです」
「それが面白いのよ。最初にはね巡査の服をきて、付(つ)け髯(ひげ)をして、地蔵様の前へきて、こらこら、動かんとその方のためにならんぞ、警察で棄てておかんぞと威張って見せたんですとさ。今の世に警察の仮声(こわいろ)なんか使ったって誰も聞きゃしないわね」
「本当ね、それで地蔵様は動いたの?」
「動くもんですか、叔父さんですもの」
「でも叔父さんは警察には大変恐れ入っているのよ」
「あらそう、あんな顔をして? それじゃ、そんなに怖(こわ)い事はないわね。けれども地蔵様は動かないんですって、平気でいるんですとさ。それで法螺吹は大変怒(おこ)って、巡査の服を脱いで、付け髯を紙屑唬à撙氦矗─嘏祝à郅Γ─贽zんで、今度は大金持ちの服装(なり)をして出て来たそうです。今の世で云うと岩崎男爵のような顔をするんですとさ。おかしいわね」
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「岩崎のような顔ってどんな顔なの?」
「ただ大きな顔をするんでしょう。そうして何もしないで、また何も云わないで地蔵の周(まわ)りを、大きな巻煙草(まきたばこ)をふかしながら歩行(ある)いているんですとさ」
「それが何になるの?」
「地蔵様を煙(けむ)に捲(ま)くんです」
「まるで噺(はな)し家(か)の洒落(しゃれ)のようね。首尾よく煙(けむ)に捲(ま)いたの?」
「駄目ですわ、相手が石ですもの。ごまかしもたいていにすればいいのに、今度は殿下さまに化けて来たんだって。馬鹿ね」
「へえ、その時分にも殿下さまがあるの?」
「有るんでしょう。八木先生はそうおっしゃってよ。たしかに殿下様に化けたんだって、恐れ多い事だが化けて来たって――第一不敬じゃありませんか、法螺吹(ほらふ)きの分際(ぶんざい)で」
「殿下って、どの殿下さまなの」
「どの殿下さまですか、どの殿下さまだって不敬ですわ」
「そうね」
「殿下さまでも利(き)かないでしょう。法螺吹きもしようがないから、とても私(わたし)の手際(てぎわ)では、あの地蔵はどうする事も出来ませんと降参をしたそうです」
「いい気味ね」
「ええ、ついでに懲役(ちょうえき)にやればいいのに。――でも町内のものは大層気を揉(も)んで、また相談を開いたんですが、もう誰も引き受けるものがないんで弱ったそうです」
「それでおしまい?」
「まだあるのよ。一番しまいに車屋とゴロツキを大勢雇って、地蔵様の周(まわ)りをわいわい騒いであるいたんです。ただ地蔵様をいじめて、いたたまれないようにすればいいと云って、夜昼交替(こうたい)で騒ぐんだって」
「御苦労様ですこと」
「それでも取り合わないんですとさ。地蔵様の方も随分強情ね」
「それから、どうして?」ととん子が熱心に聞く。
「それからね、いくら毎日毎日騒いでも験(げん)が見えないので、大分(だいぶ)みんなが厭(いや)になって来たんですが、車夫やゴロツキは幾日(いくんち)でも日当(にっとう)になる事だから喜んで騒いでいましたとさ」
「雪江さん、日当ってなに?」とすん子が伲鼏枻颏工搿?br />
「日当と云うのはね、御金の事なの」
「御金をもらって何にするの?」
「御金を貰ってね。……ホホホホいやなすん子さんだ。――それで叔母さん、毎日毎晩から騒ぎをしていますとね。その時町内に馬鹿竹(ばかたけ)と云って、何(なんに)も知らない、誰も相手にしない馬鹿がいたんですってね。その馬鹿がこの騒ぎを見て御前方(おまえがた)は何でそんなに騒ぐんだ、何年かかっても地蔵一つ動かす事が出来ないのか、可哀想(かわいそう)なものだ、と云ったそうですって――」
「馬鹿の癖にえらいのね」
「なかなかえらい馬鹿なのよ。みんなが馬鹿竹(ばかたけ)の云う事を聞いて、物はためしだ、どうせ駄目だろうが、まあ竹にやらして見ようじゃないかとそれから竹に頼むと、竹は一も二もなく引き受けたが、そんな邪魔な騒ぎをしないでまあ静かにしろと車引やゴロツキを引き込まして飄然(ひょうぜん)と地蔵様の前へ出て来ました」
「雪江さん飄然て、馬鹿竹のお友達?」ととん子が肝心(かんじん)なところで奇問を放ったので、細君と雪江さんはどっと笑い出した。
「いいえお友達じゃないのよ」
「じゃ、なに?」
「飄然と云うのはね。――云いようがないわ」
「飄然て、云いようがないの?」
「そうじゃないのよ、飄然と云うのはね――」
「ええ」
「そら多々良三平(たたらさんぺい)さんを知ってるでしょう」
「ええ、山の芋をくれてよ」
「あの多々良さん見たようなを云うのよ」
「多々良さんは飄然なの?」
「ええ、まあそうよ。――それで馬鹿竹が地蔵様の前へ来て懐手(ふところで)をして、地蔵様、町内のものが、あなたに動いてくれと云うから動いてやんなさいと云ったら、地蔵様はたちまちそうか、そんなら早くそう云えばいいのに、とのこのこ動き出したそうです」
「妙な地蔵様ね」
「それからが演説よ」
「まだあるの?」
。。
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「ええ、それから八木先生がね、今日(こんにち)は御婦人の会でありますが、私がかような御話をわざわざ致したのは少々考があるので、こう申すと失礼かも知れませんが、婦人というものはとかく物をするのに正面から近道を通って行かないで、かえって遠方から廻りくどい手段をとる弊(へい)がある。もっともこれは御婦人に限った事でない。明治の代(よ)は男子といえども、文明の弊を受けて多少女性的になっているから、よくいらざる手数(てすう)と労力を費(つい)やして、これが本筋である、紳士のやるべき方針であると铡猡筏皮い毪猡韦啶い瑜Δ坤ⅳ长斓趣祥_化の業に束俊丹欷炕蝺梗à堡い福─扦ⅳ搿eに論ずるに及ばん。ただ御婦人に在(あ)ってはなるべくただいま申した昔話を御記憶になって、いざと云う場合にはどうか馬鹿竹のような正直な了見で物事を処理していただきたい。あなた方が馬鹿竹になれば夫婦の間、嫁姑(よめしゅうと)の間に起る忌(いま)わしき葛藤(かっとう)の三分一(さんぶいち)はたしかに減ぜられるに相摺胜ぁH碎gは魂胆(こんたん)があればあるほど、その魂胆が祟(たた)って不幸の源(みなもと)をなすので、多くの婦人が平均男子より不幸なのは、全くこの魂胆があり過ぎるからである。どうか馬鹿竹になって下さい、と云う演説なの」
「へえ、それで雪江さんは馬鹿竹になる気なの」
「やだわ、馬鹿竹だなんて。そんなものになりたくはないわ。金田の富子さんなんぞは失敬だって大変怒(おこ)ってよ」
「金田の富子さんて、あの向横町(むこうよこちょう)の?」
「ええ、あのハイカラさんよ」
「あの人も雪江さんの学校へ行くの?」
「いいえ、ただ婦人会だから傍聴に来たの。本当にハイカラね。どうも驚ろいちまうわ」
「でも大変いい器量だって云うじゃありませんか」
「並ですわ。御自慢ほどじゃありませんよ。あんなに御化粧をすればたいていの人はよく見えるわ」
「それじゃ雪江さんなんぞはそのかたのように御化粧をすれば金田さんの倍くらい美しくなるでしょう」
「あらいやだ。よくってよ。知らないわ。だけど、あの方(かた)は全くつくり過ぎるのね。なんぼ御金があったって――」
「つくり過ぎても御金
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