《吾輩は猫である》第50章


方が安心を得るに便利である。安心は万物に必要である。吾輩も安心を欲する。よって三面攻撃は起らぬと極(き)める。
それでもまだ心配が取れぬから、どう云うものかとだんだん考えて見るとようやく分った。三個の計略のうちいずれを選んだのがもっとも得策であるかの問睿藢潳筏啤⒆裕à撙氦─槊鞑tなる答弁を得るに苦しむからの煩悶(はんもん)である。戸棚から出るときには吾輩これに応ずる策がある、風呂場から現われる時はこれに対する計(はかりごと)がある、また流しから這い上るときはこれを迎うる成算もあるが、そのうちどれか一つに極(き)めねばならぬとなると大(おおい)に当惑する。枺_大将はバルチック艦隊が対馬海峡(つしまかいきょう)を通るか、津軽海峡(つがるかいきょう)へ出るか、あるいは遠く宗谷海峡(そうやかいきょう)を廻るかについて大(おおい)に心配されたそうだが、今吾輩が吾輩自身の境遇から想像して見て、ご困却の段実に御察し申す。吾輩は全体の状況において枺_閣下に似ているのみならず、この格段なる地位においてもまた枺_閣下とよく苦心を同じゅうする者である。
吾輩がかく夢中になって智证颏幛挨椁筏皮い毪取⑼蝗黄皮欷垦献婴_(あ)いて御三(おさん)の顔がぬうと出る。顔だけ出ると云うのは、手足がないと云う訳ではない。ほかの部分は夜目(よめ)でよく見えんのに、顔だけが著るしく強い色をして判然眸底(ぼうてい)に落つるからである。御三はその平常より赤き睿Г颏蓼工蓼钩啶筏葡礈閹ⅳ盲郡膜い扦恕⒆蛞梗à妞Δ伲─藨停à常─辘皮⒃绀閯偈证螒蹙啠à趣袱蓼辏─颏工搿鴶趣侵魅摔长违攻匹氓蛘碓爻訾筏皮堡仍皮ι劋à搿:韦韦郡幛苏眍^にステッキを飾るのか吾輩には分らなかった。まさか易水(えきすい)の壮士を気取って、竜鳴(りゅうめい)を聞こうと云う酔狂でもあるまい。きのうは山の芋、今日(きょう)はステッキ、明日(あす)は何になるだろう。
夜はまだ浅い鼠はなかなか出そうにない。吾輩は大戦の前に一と休養を要する。
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主人の勝手には引窓がない。座敷なら欄間(らんま)と云うような所が幅一尺ほど切り抜かれて夏冬吹き通しに引窓の代理を勤めている。惜し気もなく散る彼岸桜(ひがんざくら)を誘うて、颯(さっ)と吹き込む風に驚ろいて眼を覚(さ)ますと、朧月(おぼろづき)さえいつの間(ま)に差してか、竈(へっつい)の影は斜めに揚板(あげいた)の上にかかる。寝過ごしはせぬかと二三度耳を振って家内の容子(ようす)を窺(うかが)うと、しんとして昨夜のごとく柱時計の音のみ聞える。もう鼠の出る時分だ。どこから出るだろう。
戸棚の中でことことと音がしだす。小皿の縁(ふち)を足で抑えて、中をあらしているらしい。ここから出るわいと穴の横へすくんで待っている。なかなか出て来る景色(けしき)はない。皿の音はやがてやんだが今度はどんぶりか何かに掛ったらしい、重い音が時々ごとごととする。しかも戸を隔ててすぐ向う側でやっている、吾輩の鼻づらと距離にしたら三寸も離れておらん。時々はちょろちょろと穴の口まで足音が近寄るが、また遠のいて一匹も顔を出すものはない。戸一枚向うに現在敵が暴行を逞(たくま)しくしているのに、吾輩はじっと穴の出口で待っておらねばならん随分気の長い話だ。鼠は旅順椀(りょじゅんわん)の中で盛に舞踏会を催うしている。せめて吾輩の這入(はい)れるだけ御三がこの戸を開けておけば善いのに、気の利かぬ山出しだ。
今度はへっついの影で吾輩の鮑貝(あわびがい)がことりと鳴る。敵はこの方面へも来たなと、そ盲热踏幼悚墙膜毪仁滞埃à皮保─伍gから尻尾(しっぽ)がちらと見えたぎり流しの下へ隠れてしまった。しばらくすると風呂場でうがい茶碗が金盥(かなだらい)にかちりと当る。今度は後方(うしろ)だと振りむく途端に、五寸近くある大(おおき)な奴がひらりと歯磨の袋を落して椽(えん)の下へ馳(か)け込む。逃がすものかと続いて飛び下りたらもう影も姿も見えぬ。鼠を捕(と)るのは思ったよりむずかしい者である。吾輩は先天的鼠を捕る能力がないのか知らん。
吾輩が風呂場へ廻ると、敵は戸棚から馳け出し、戸棚を警戒すると流しから飛び上り、台所の真中に頑張(がんば)っていると三方面共少々ずつ騒ぎ立てる。小癪(こしゃく)と云おうか、卑怯(ひきょう)と云おうかとうてい彼等は君子の敵でない。吾輩は十五六回はあちら、こちらと気を疲らし心(しん)を労(つか)らして奔走努力して見たがついに一度も成功しない。残念ではあるがかかる小人(しょうじん)を敵にしてはいかなる枺_大将も施(ほど)こすべき策がない。始めは勇気もあり敵愾心(てきがいしん)もあり悲壮と云う崇高な美感さえあったがついには面倒と馬鹿気ているのと眠いのと疲れたので台所の真中へ坐ったなり動かない事になった。しかし動かんでも八方睨(はっぽうにら)みを極(き)め込んでいれば敵は小人だから大した事は出来んのである。目ざす敵と思った奴が、存外けちな野郎だと、戦争が名誉だと云う感じが消えて悪(に)くいと云う念だけ残る。悪(に)くいと云う念を通り過すと張り合が抜けてぼ趣工搿¥堠‘としたあとは勝手にしろ、どうせ気の利(き)いた事は出来ないのだからと軽蔑(けいべつ)の極(きょく)眠(ねむ)たくなる。吾輩は以上の径路をたどって、ついに眠くなった。吾輩は眠る。休養は敵中に在(あ)っても必要である。
横向に庇(ひさし)を向いて開いた引窓から、また花吹雪(はなふぶき)を一塊(ひとかたま)りなげ込んで、烈しき風の吾を遶(めぐ)ると思えば、戸棚の口から弾丸のごとく飛び出した者が、避くる間(ま)もあらばこそ、風を切って吾輩の左の耳へ喰いつく。これに続くび挨厢幔àΔ罚─恧藦hるかと思う間もなく吾輩の尻尾(しっぽ)へぶら下がる。瞬(またた)く間の出来事である。吾輩は何の目的もなく器械的に跳上(はねあが)る。満身の力を毛穴に込めてこの怪物を振り落とそうとする。耳に喰い下がったのは中心を失ってだらりと吾が横顔に懸る。護謨管(ゴムかん)のごとき柔かき尻尾の先が思い掛なく吾輩の口に這入る。屈竟(くっきょう)の手懸(てがか)りに、砕(くだ)けよとばかり尾を啣(くわ)えながら左右にふると、尾のみは前歯の間に残って胴体は古新聞で張った壁に当って、揚板の上に跳(は)ね返る。起き上がるところを隙間(すきま)なく仯à危─窉欤à─欷小拢à蓼辏─蝓恚à保─郡毪搐趣⑽彷叅伪扦扭椁蚵樱à梗─幛漆灓甓韦慰F(ふち)に足を縮めて立つ。彼は棚の上から吾輩を見おろす、吾輩は板の間から彼を見上ぐる。距離は五尺。その中に月の光りが、大幅(おおはば)の帯を空(くう)に張るごとく横に差し込む。吾輩は前足に力を込めて、やっとばかり棚の上に飛び上がろうとした。前足だけは首尾よく棚の縁(ふち)にかかったが後足(あとあし)は宙にもがいている。尻尾には最前のい猡韦⑺坤踏趣怆xるまじき勢で喰い下っている。吾輩は危(あや)うい。前足を懸(か)け易(か)えて足懸(あしがか)りを深くしようとする。懸け易える度に尻尾の重みで浅くなる。二三分(にさんぶ)滑れば落ちねばならぬ。吾輩はいよいよ危うい。棚板を爪で掻(か)きむしる音ががりがりと聞える。これではならぬと左の前足を抜き易える拍子に、爪を見事に懸け損じたので吾輩は右の爪一本で棚からぶら下った。自分と尻尾に喰いつくものの重みで吾輩のからだがぎりぎりと廻わる。この時まで身動きもせず
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