「く、く、く、く、く……」
と、ぶきみな声をたてるばかりである。
「おのれ、いうことをきかぬと……」
警部はピストルを身がまえたが、
「アッ、警部さん、ちょっと待ってください」
あわててそれを押しとめた金田一耕助、ひざをも没する雑草をかきわけて、銀仮面のほうへ走っていった。
「アッ、金田一さん、あぶない!」
警部がうしろから叫んだが、金田一耕助は耳にもいれず、相手のそばへかけよると、あのつばの広い帽子をパッととり、それから銀仮面をはずしたが、そのとたん、こちらから見ていた一同は、おもわずアッと手に汗をにぎった。
口をきかないのもむりはない。その男はさるぐつわをはめられているのだ。また、身動きをしないのもどうり、その男はスギの大木にしばりつけられていたのである。
「いったい、ど、どうしたのだ。おまえはいったいだれだ?」
近づいてきた一同が、よってたかって、さるぐつわをとり、縄をといてやると、その男は恐怖に顔をひきつらせて、くたくたと草のなかへくずおれると、
「わたしは……わたしはなにも知りません。ピストルの音と、だれかが救いを呼ぶ声に、目をさましてとび起きたところへ、銀仮面がやってきて……ピストルでおどされ、ここまで連れてこられ、ここにしばりつけられて、さるぐつわをはめられたのです」
なるほど、そういえばその男は、まだ若い男だったが、ねまきを着たままで、スギの大木にしばりつけられ、その上に銀仮面のマントを、かぶせられていたのだった。
「いったい、きみはだれだ。あの洋館の者か?」
「そうです、使用人の|井《い》|口《ぐち》というのです」
そこでまた、井口はきゅうに恐ろしそうな声をあげると、
「ご主人はどうしました。たしかにご主人の救いをもとめる声が聞こえましたが……」
「ご主人というのは、加藤宝作老人のことですか?」
金田一耕助がたずねた。
「そうです、そうです」
「すると、あのうちは宝作老人のうちですね」
「そうです。近ごろ買って、引っ越してきたばかりです」
「近ごろ買って……そしてまえの持ち主はなんというひとですか?」
「知りません。わたしは知りません。ご主人はむろん知っていらっしゃるでしょうが……」
「よし、それじゃ警部さん、うちへひきかえしましょう」
「いや、それより銀仮面はどうしたのだ。おい、きみ、銀仮面はきみをしばりつけて、どっちの方面へ逃げたんだ!」
「知りません。わたしは仮面をかぶらされてしまったのですから」
「しかし、きみはあいつの顔を見たのだろう。仮面をはずしたとき……いったいどんなやつだった?」
「さあ……?」
使用人の井口は首をかしげて、
「暗くてよくわからなかったのですが、まだ若い男のようでした。三十二、三歳の……」
「よし、それじゃきみたち」
等々力警部は刑事や警官たちをふりかえり、
「銀仮面のゆくえをさがしてみろ。あいつはふつうの洋服すがたになって逃げだしたのだが、けがをしているから目印はある。それをたよりにさがしてみろ。わかったか!」
「はっ、承知しました」
刑事や警官がバラバラと、暗い夜道を散っていったあと、使用人の井口をひき連れて、もとの洋館へ帰ってみると、加藤宝作老人は医者のかいほうで、ようやく正気にかえったところだった。
地下道の足音
「アッ、警部さん、金田一さん、あなたがたはどうしてここへ……?」
ベッドの上で、ほうたいまみれになった宝作老人は、一同の顔を見ると、びっくりしたように目を見張った。
「加藤さん」
警部は相手をいたわるような目つきで、
「とんだ災難でしたね。しかし、どうしてこんなことになったのです。銀仮面はいったい、なにをねらってここへきたんですか?」
「ああ、それじゃ、あれはやっぱり銀仮面だったのですか」
「そうです。金田一さんはあいつの影が、その窓にうつっているのを見たのです」
「そうですよ。とっさのことで、わたしにはよくわからなかったのだが……」
宝作老人は気味悪そうに身ぶるいをすると、
「わたしは今夜、早くからベッドへはいって寝たのです。いつもは支配人もうちにいるのですが、二、三日旅行しているので、いまはわたしと使用人の井口ふたりしかおりません。それで戸じまりにいっそう気をつけて、十時ごろに電燈を消して寝たのです。すると……」
「すると……?」
「何時ごろでしたか、よく寝ていたのでわかりませんが、なにやらガタガタいう音で目がさめました。そこで電燈をつけたのですが、すると、とつぜんその押し人れのなかから、あいつがとびだしてきたんです」
「押し入れのなかから……?」
金田一耕助がたずねた。
「そうです、そうです。それでわたしがびっくりして、声をたてようとすると、いきなりそいつがピストルをぶっぱなして……それきりあとのことは覚えておりません」
「加藤さん」
金田一耕助はきっと相手の顔を見守りながら、
「このうちは、あなたがお買いになるまえは、いったいだれのうちだったのですか?」
「ええ……と、わたしは|仲介者《ちゅうかいしゃ》から買ったのですが……そうそう、たしかまえの持ち主は、大野……大野健蔵というひとでした」
金田一耕助と文彦は、それを聞くとハッと顔を見合わせたが、つぎの瞬間、耕助は身をひるがえして、押し入れのまえにとんでいくと、パッとドアをひらいた。
引っ越してきたばかりのこととて、押し入れのなかはからっぽである。金田一耕助は懐中電燈で、押し入れのなかを眨伽皮い郡ⅳ工坝覀趣韦伽恕⑿·丹胜伐堀骏螭ⅳ毪韦虬k見して押してみた。
と、そのとたん、一同はおもわずアッと声をたてたのである。
おお、なんということだろう。押し入れの床が、ガタンと下へひらいたかと思うと、そこにはまた、まっ暗な縦穴がひらいているではないか。しかも、懐中電燈の光で眨伽皮撙毪取ⅳ饯慰k穴には垂直に、鉄のはしごがついている。
一同はしばらくだまって顔を見合わせていたが、やがて金田一耕助がきっぱりと、
「警部さん、あなたはここにいてください。加藤さんにまだいろいろとおたずねになることがあるのでしょう。ぼく、ちょっとこの抜け穴を眨伽皮撙蓼埂?br /> 「アッ、先生、ぼくもいきます」
文彦が叫んだ。
「よし、きたまえ」
金田一耕助は一步鉄ばしごに足をかけたが、とつぜん、ギョッとしたように立ちすくんでしまった。
「せ、先生、ど、どうかしましたか?」
「シッ、だまって! あれを聞きたまえ!」
金田一耕助はそういって、抜け穴の底を指さした。それをきいて一同が、きっと、聞き耳をたてていると、ああ、聞こえる、聞こえる、抜け穴の底からかすかな足音が……ためらうように步いてはとまり、それからまた、思いきったように步きだす足音……。
しかも、その足音はしだいにこちらへ近づいてくるではないか。
一同はおもわずギョッと顔を見合わせた。
またもや消えた銀仮面
ああ、ひょっとすると銀仮面がまだ、地下の抜け穴をうろついているのではあるまいか。
「だ、だれだっ! そこにいるのは!」
等々力警部がたまりかねて、大きな声で叫んだ。その声はまるで、ふかい古井戸にむかって叫ぶように、あちこちにこだまして、遠く、かすかに、いんいんとしてひびいていく。と、たちまち足音はむきをかえて、もときたほうへ走っていった。
「しまった!」
と、舌を鳴らした金田一耕助、手にした懐中電燈を口にくわえると、いきなり鉄ばしごのそばにある、太い垂直棒にとびついた。と、見るやスルスルスル、
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