見ると老人の手のひらには、金色の小箱がのっている。
「おじさん、これはなんですか?」
「なんでもいい。おかあさんにあげるおみやげだ。もし、きみのおとうさんやおかあさんがお困りになるようなことがあったら、この箱をあけてみたまえ。なにかと役に立つだろう」
老人はそういうと、むりやりに黄金の小箱を、文彦のポケットに押しこみ、
「さあ、早くお帰り、そして、もう二度とここへくるんじゃありませんぞ。そのうちに、きっとわしのほうからたずねていく……」
老人はそういって、押しだすように玄関から、文彦をおくりだすと、バタンとドアをしめてしまった。
文彦はいよいよキツネにつままれた気持ちである。それと同時になんともいえない気味悪さをおぼえた。文彦はワッと叫んでかけだしたいのを一生けんめいこらえて、その家の門を出ると、足を早めて、さっきのやぶかげの小川のほとりまできたが、そのときうしろから、だれやらかけつけてくる足音……。
三つの約束
文彦はギョッとして立ちどまったが、追ってきたのはべつにあやしい者ではなく、大野老人のお嬢さんの香代子だった。
「文彦さん」
香代子はほおをまっかにして、ハ烯‘息をはずませながら近づいてくると、
「あなたずいぶん足が早いのね。あたし一生けんめいに走ってきたのよ」
「はあ、なにかぼくにご用ですか?」
「ええ、うっかりして、その箱のあけかたを、教えるのを忘れたから、それをいってこいとおとうさまにいいつけられて……」
「ああ、そうですか」
文彦はなにげなく、ポケットから黄金の小箱をとりだそうとすると、
「シッ、だしちゃだめ!」
香代子はすばやくあたりを見まわして、
「文彦さん、あなたお約束をしてちょうだい。三つのお約束をしてちょうだい」
「三つの約束って……?」
「まず第一に、おうちへ帰るまで、ぜったいにその箱を、だしてながめたりしないこと。第二に、ほんとに困ったときとか、いよいよのときでないとその箱をあけないこと。第三に、なかからなにが出てきても、けっしてひとにしゃべらないこと。……わかって?」
「わかりました」
「このお約束、守ってくださる?」
「守れると思います。いや、きっと守ります」
「そう、それじゃ指切りしましょう」
にっこり笑って、香代子はゲンマンをしたが、すぐまた、さびしそうな顔をして、
「文彦さん、あなたにお目にかかれて、こんなうれしいことはないわ。でも……またすぐにお別れしなければならないんじゃないかと思うのよ」
「どうしてですか?」
文彦はびっくりして聞きかえした。
「ダイヤのキングよ。ダイヤのキングがスギの幹に、くぎざしになっていたでしょう。ダイヤのキングが、あたしたちの身のまわりにあらわれると、いつもあたしたちは逃げるように、お引っ越しをするの。
いままでに五ヘンも、そんなことがあったわ。こんどは二年ばかりそんなことがなかったので、やっとおちつけるかと思ったのに……」
「香代子さん、それじゃだれかが、きみたちの家をねらっているというの?」
そのとき、フッと文彦の頭にうかんだのは、あの気味の悪い老婆だった。それからもう一つ、あの客間にあるよろいのこと。
「アッそうだ。香代子さん、きみんちの客間にあるよろいね。あのなかにはだれかひとがはいっているの?」
「な、な、なんですって?」
香代子はびっくりして目をまるくした。
「文彦さん、そ、それ、なんのこと? よろいのなかにひとがいるって?」
「いや、いや、ひょっとすると、これはぼくの思いちがいかも知れないんだ。しかし、ぼくにはどうしても、あのよろいのなかにひとがいるような気がしてならなかったんだ。息づかいの音がするような気がしてならなかったんだ。
それをおじさんにいおうとしたんだが、おじさんがむりやりに、ぼくを外へ押しだすものだから……」
大きく見張った香代子の目には、みるみる恐怖の色がいっぱいひろがってきた。しばらく香代子は、石になったように立ちすくんでいたが、とつぜん、口のうちでなにやら叫ぶとクルリとむきなおって、
「さようなら、文彦さん、あたし、こうしちゃいられないわ。いいえ、あなたはきちゃだめ。あなたは早くおうちへ帰って……。
箱をあけるのは、8.1.3よ」
香代子はまるで猛獣におそわれたウサギのように、やぶかげの小道を走り去っていった。
文彦はいよいよますます、キツネにつままれたような気持ちがした。考えてみると、きょう一日のできごとが、まるで夢のようにしか思えないのだ。
文彦はよっぽど香代子のあとを追って、もう一度あの家へひきかえしてみようかと思ったが、気がつくと、あたりはすでにほの暗くなっていた。
いまからひきかえしたりしたら、すっかり日が暮れてしまうことだろう。
それにきちゃいけないという香代子のことばもあるので、やめてそのままうちへ帰ってきたが、
「ただいま」
と、|格《こう》|子《し》をあけるなり、奥からころがるように出てきたのはおかあさんだった。
「ああ、文彦よく帰ってきたわね。おかあさんは心配で心配で……それに、|金《きん》|田《だ》|一《いち》先生も、けさのテレビを見て、ふしぎに思ってきてくだすったのよ。あまりおそいから、いま迎えにいっていただこうと思っていたところなの」
そういうおかあさんのうしろから、
「や、やあ、ふ、文彦くん、お、お帰り」
と、顔をだしたのは、たいへん風変わりな人物だった。よれよれの着物によれよれのはかま、それにいつ床屋へいったかわからぬくらい、髪をもじゃもじゃにして、少しどもるくせのある、小柄でひんそうなひとなのだ。
そのひとはにこにこしながら奥から出てきたが、ひと目文彦の顔を見ると、
「や、や、どうしたんだ、文彦くん? き、きみはまるで、ゆ、ゆうれいでも見たような、顔をしているじゃないか」
ああ、それにしてもこの金田一先生というのは、いったい何者なのだろうか。
ひょっとすると諸君のなかには、もうこの名を知っているひとがあるかもしれないが……。
名探偵、|金《きん》|田《だ》|一《いち》|耕《こう》|助《すけ》
金田一耕助。――と、いう珍しい名まえは、そうざらにあるものではない。だから諸君のなかにもその名を聞いて、ハハアと思いあたるかたもあることだろう。
名探偵、金田一耕助! そうだ。そのとおりなのだ。みなりこそ貧弱だが、顔つきこそひんそうではあるが、金田一耕助といえば、日本でも一、二といわれる名探偵。その腕のさえ、頭のよさ、いかなる怪事件、難事件でも、もののみごとに、ズバリと解決していく推理力のすばらしさ。
その金田一耕助は、むかしから文彦のおとうさんとは、兄弟のように親しくしている仲だったが、きょう、はからずもテレビのたずねびとの時間に、文彦の名を聞いて、ふしぎに思ってたずねてきたのだった。
「文彦くん、どうしたんだね。それできみは、大野健蔵というひとのところへいってきたのかね」
「はい、いってきました。でも、先生、それがとてもみょうなんです」
「みょうというのは……?」
そこで文彦は問われるままに、きょう一日のふしぎなできごとを、くわしく話して聞かせた。途中で出会った気味の悪い老婆のこと、大野老人のけがのこと、ダイヤがたのあざ[#「あざ」に傍点]を眨伽椁欷郡长取ⅴ昆ぅ浃违螗挨韦长取ⅳ饯欷椁蓼课餮螭韦瑜恧い韦胜恕ⅳ坤欷欷皮い毪瑜Δ蕷荬筏皮胜椁胜盲郡长趣胜嗓颉ⅳ猡欷胜挙筏郡ⅳ郡馈ⅴ荪饱氓趣韦胜摔?
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